今日の夜空は雲一つない満点の星空。
俺たちは重い天体望遠鏡を担いで走っている。
「おい、急げよ! 好機を逃してしまうぞ!」
「あ、ああ……解ってるけど、そんなに急いで走らなくても……はぁはぁ」
好機とは無論、天体観測である。
今日はペルセウス流星群が最もよく観測できる日なのだ。
心配だった天候も最高な状態、これを逃せば普段何のため学校の連中から‘穀潰し’‘いらない部’と後ろ指さされるのに堪えながら天文部を守ってきたのか分からなくなる。
「何言ってるんだよ、きっと三輪先生も待ってるし
今世紀で一番きれいに見れるって言われてるんだ!
それに部費で購入した最新型の望遠鏡を試す絶好のチャンスだからな!」
「そんなこと言っても……
こっちは結構大荷物持ってるんだよ」
「てか、いつも思ってたんだが、その背中のリュックサックは何入ってんだ?」
「危機意識の薄い君には分からないものさ。ふふふ……」
俺の名は月島蛍一。
そしていつも謎の巨大なリュックを持ち運んでる親友の本田だ。
俺たちは天星館学園に通うしがない1年生であり、誇り高き天文学部のエースだ。
二人しかいないけどな!
天文学部は現在顧問1人の部員2名という廃部間近の部活であり、その割には機材に金を食う。
結果、他の生徒や教師からは‘穀潰しの天文学部’‘何も役に立たない天文学部’として尊敬を集め、事あるごとに天文学部を廃部にしようと画策されている訳である。
そして俺と本田は窓際の係長とあだ名されているという始末だ。
学園の校門に到着する。
門は顧問の三輪先生が開けてくれていた。
「夜の学校ってぞくぞくするよな!」
何やら腰を振りながら妖しい妄想に耽けようとする親友を引っ張り、俺達は三輪先生の待つ校舎の屋上へと急ぐ。
「待ってたのよ。月島君と本田君♪」
明らかにおネエのような素振りを見せながら三輪先生が俺達を迎える。
「君たちが遅いから、んん〜、一人で流星群を見るのかなと思って……
不安になっちゃってパートナーにメールしちゃったわよ♪
返信が来ないけど……」
俺と本田は苦笑しつつ、天文学部のこの状況には三輪先生という存在が少なくとも影響しているなと確信する。
たまにお尻を触ってくる以外はとても良い先生なんだけど…。
あと、合宿の風呂で妙な視線感じたり、女を異常に敵視してたり……。
俺たちはさっそく天文学部が誇る最新の天体望遠鏡をセッティングしてペルセウス流星群の観測を行う。
文化祭用に動画を撮影しながら。
俺たちは天体ショーに魅せられて時間が過ぎるのも忘れて没頭する。
すると三輪先生が突然大きな声を上げる。
「あら? あれは何!?」
三輪先生は北極星のある方向を指差す。
その方向には北斗七星が美しく輝いている。
その脇、普段ない輝きが見えた。
「あれは、死兆星……!!?」
何だか昔のマンガで読んだ事あるような星の名を叫ぶ本田。
「本田君は古いネタを持ってくるのね」
「こういうときにはお決まりのパターンですなぁ!」
などと言っている場合ではない。
肉眼でも確認できるその星の輝きは異様である。
前日までは何もなかった暗黒空間に輝く星。
「もしかして超新星爆発か何かか!?」
「もしやUFO!!?」
「おかしいわ! 星の輝きが大きくなってきてるわよ!」
確かに星の輝きは一段と増していく。
「気のせいかもしれんが……あれって、段々近づいてきてないか?」
「月島もそう思うか!?」
「先生まずいですよ……あの星なんか近づいていて……!!?」
すると先ほどまでいたはずの三輪先生の姿がない。
「お、おい本田! 三輪先生が消えたぞ!?」
本田の方を見ると今度は本田もいない。
「本田!? どうなって……!?」
すると周囲が眩い光に包まれてゆく。
「な、なんだこれ!!?」
目を開けていられない。
何か轟音がしたかと思うと俺は意識を失ってしまった。